竜宝丸 船長黒田大介さん
1981年、香美町香住区生まれ。18歳で漁師になり、浜坂での1年間の修行を経て家業を継ぐ。30歳の時、父に代わり「竜宝丸」の船長に。総勢6〜7人で、秋はハタハタ、カレイ、エビ類、冬は松葉がにを中心とした底曳網漁を行う。家庭では2児の父。「好きな魚はエビ。だけど実は肉派かも…」
「いよいよ松葉がに漁が始まりました!俺の獲ってきたカニを香住に食べにきてくれ!」
なるべくして漁師に
香住の若き船長
父も祖父も漁師。小さい頃から港で水揚げの手伝いをしていた黒田さんにとって、高校卒業後に漁師になったのは“当たり前のこと”だったそうです。とはいえ「こんな過酷な仕事はない」と、今でも思うのだとか。全国的にも漁師は後継者不足。実際、黒田さんの周囲の同世代は、ほとんどが漁師を継がずに就職したのだそう。30代の黒田さんは、今香住で一番若い船長です。
船長としての責任
竜宝丸は39トンの中型船。6〜7人で底曳網漁を行います。早朝に出港して漁場に向かい、ほぼ2〜3日がかりの漁。船上では投網、引き揚げ、魚の選別…が繰り返されます。引き揚げには1時間程かかるため、船員はその間に休憩できますが、操作する船長は網や他の船の動きから目が離せません。不眠不休の疲れと漁獲の責任が常に黒田さんに重くのしかかります。
「特にカニはレーダーに映らないので、網を入れてみないと分からない。時には一枚しかカニが入っていないなんてこともあります」と苦笑い。冬場は松葉がに漁で一番高収入が見込めるシーズン。網の網投場所はとても重要で、船長の経験と勘が物を言います。うまくいけば、一網が百万円を超える売上げにつながることもあるそうです。
「漁師の収入は基本給+歩合給。仕事は厳しいけど、その分収入に跳ね返ってきた時は何よりうれしい」と話します。
鮮度を保ったまま港へ
黒田さんがもっとも気を配っているのが鮮度維持。穫った魚は大きさや種類で速やかに選別し、特に松葉がには、水槽に入れて生きたまま港へ運びます。どんな魚も新鮮な状態で帰港できるのが中型船の強み。竜宝丸は香住港から70kmくらいの範囲で漁を行っています。
水揚げ後、休むことなくすぐに漁に出ることもしばしば。天候に左右されるため、臨機応変な操業と決断が必要となります。
1000枚に1枚、
香住プレミアムタグ誕生
「昔はよかった」そんな声をよく耳にする黒田さん。漁獲高の減少は自分の船でも感じています。一方で、カニ以外の魚については単価が下がっているのだとか。過酷な労働に見合った収入が見込めないと、漁師の未来はないと感じています。
今年(2015)、香住港に水揚げされる松葉がにのブランド力を高めようと、1.4kg以上、見た目などの厳しい選別基準を満たした“至極の一枚”だけに付ける「香住PREMIUM(プレミアム)タグ」を作りました。およそ1000分の1の割合でしか揚がらない希少価値の高さ、その確かな質が認められ、前年までよりも高値で取り引きされています。竜宝丸でもすでにいくつかこのタグを付けた松葉がにが出ました。
漁師特有の世界
「(漁師を)やったからには中途半端は嫌。三代目の自分で終わらせたくない」と黒田さん。その気持ちは、4年前、父の跡を継いで船長になってから一層強くなりました。
一緒に漁をする船員はほとんどが50代ですが、一番若い黒田さんは特にやりにくさなどは感じていないと言います。話す程に感じるどっしりとした風格…それは、船長という立場が絶対的な決定権と責任を担う、特有の世界でこそ培われたものかもしれません。